文房具屋さん大賞2026の大賞は、LACONICのソリッドライト。機構を増やすだけではない、軸と重心をつくる方向に目を向ける。
部門賞ではなく、総合の大賞だった。
文房具屋さん大賞という賞がある。全国の文具店の店員が、その年に本当に良かった文具を選ぶ賞だ。
二〇二六年の大賞に選ばれたのは、ラコニックの「ソリッドライト」というシャープペンシルだった。価格は三千九百六十円。
ここで注目したいのは、シャープペン部門の受賞ではないということだ。ノートも、ペンも、手帳も、ハサミも含めた文具全体の中から、四千円近いシャープペンシルが一番に選ばれている。
便利な新機能だけを文具の価値と考えると、この受賞は少し意外に見える。どれほど多くのことができるかではなく、一つの動作をどう気持ちよく行えるか、という問いが残る。
四千円近いシャープペンシルは、気軽に買い足す消耗品とは違う。
安くない。新しい機能があるわけでもない。これがないと困る、という道具でもない。
それが一番になった。ここから読み取れることがある。
選ばれた理由が、機能の説明ではない。
ソリッドライトがどんなシャープペンシルかというと、金属の軸で、余計なものが付いていない。
ラバー塗装をした軸は手になじみ、無駄を削ぎ落としたかたち。そして重心のバランスが練られていて、ほどよい重量感が書くときの安定につながっている。
この説明の中に、新機能がひとつも出てこないのが面白いところだ。
芯が回るわけでも、自動で出るわけでもない。折れない特別な仕組みが入っているわけでもない。金属で、重さがあって、重心が良い。それだけだ。
つまり選ばれたのは、機能ではなく、書いている時間の質の方だった。
機能で説明できる文具は、比較しやすい。何色入りか、何ミリか、何枚とじられるか。数字で並べれば優劣がつく。
手応えは、そうはいかない。持ってみないと分からないし、持っても人によって答えが違う。売り場で説明するのがいちばん難しい種類の価値だ。
文具店の店員が選ぶ賞なので、実際に売って、客の反応を見ている人たちが投票している。その人たちが、いちばん説明しにくいものを選んだことになる。
これは、この数年の売り場の変化とたぶん同じ方向を向いている。
製図用の顔を、眺めてみる。
ソリッドライトを眺めると、製図用の道具に通じる輪郭が見える。
細い先端、無駄を抑えた軸、落ち着いた色。製図用をもとにしたシャープペンシルにも、こうした形が見られる。
製図用というのは、もともと図面を引くための道具だ。定規に沿わせるためにパイプが細く、長時間持つために滑り止めが刻まれ、線をまっすぐ引くために先端が重い。
つまり、格好よく見えている部分は全部、機能から来た形だ。
その形が、図面を引かない中高生に選ばれている。
製図以外の場面でも、形が持っていた理由は残る。手書きの道具として、別の使い手に届いている。
機械式の時計は、正確さでは電池式に勝てない。それでも売れている。理由を聞かれると、たいてい「格好いいから」と「持っていると気分がいいから」に落ち着く。
シャープペンシルも、そこに入りかけている。
高いシャープペンシルは、もう例外ではない。
価格だけで線を引こうとすると、話が見えにくくなる。
千円台の定番も、三千円から五千円台の製品もある。高級と呼ぶ境目は人によって違うので、価格の上がり方と市場全体の変化を同じものとしては扱えない。
そして買っているのが大人だけではない。中高生が、お年玉の時期に高価格帯のシャープペンシルを買っていく。選ぶ基準も細かい。芯を出す仕組み、先端のパイプ、重さと重心、金属か木か、芯が折れないか、尖り続けるか、ノックが要るか要らないか。
大人が「どれも同じでしょう」と言っている横で、中学生が重心の話をしている。
しかも、彼らは実際に長時間書く。授業と宿題と、受験勉強。一日に何時間も握る道具を選んでいるのだから、真剣になるのは当然でもある。
大賞は販売本数の順位を示すものではない。使い勝手やデザインをどう評価したか、その結果として受け止めたい。
四千円の道具が、一番になる年だった。
まとめると、二〇二六年に起きたのはこういうことだ。
文具全体の大賞に、軸と重心の設計を大切にした四千円近いシャープペンシルが選ばれた。新しい機構だけが、文具の進む道ではない。
高いシャープペンシルは、一部の好事家の趣味ではなくなった。文具の真ん中に、かなり近いところまで来ている。
琴平文具店からこの受賞を紹介するのは、高い道具の理由を機構の数だけで説明したくないからだ。
四千円近くを出す理由が、自分の中にあるかどうか。そこは賞の名前だけでは決まらない。
答えは、たいてい使ってみるまで分からない。だからこの帯の道具は、勧めるのが難しい。店としても、押しつけずに置いておくくらいがちょうどいいと思っている。
二〇二六年、文房具の大賞はシャープペンシルだった。