SERIES
日本と海外の色鉛筆メーカー10社。
色鉛筆って、メーカーで選んだことがありますか。
子どもの頃は、たぶんそんなこと考えなかったと思います。箱に12色とか24色とか入っていて、赤があって、青があって、黄色があって。それで十分でした。ところが、大人になって色鉛筆売り場をちゃんと見てみると、知らない名前がけっこうあります。
ドイツ、スイス、イギリス、チェコ。
しかも調べてみると、100年以上鉛筆をつくっている会社があったり、もともとは絵具の会社だったり、会社の名前が昔の風刺画家から取られていたりする。
同じ「色鉛筆」なのに、けっこう背景が違うんです。
色鉛筆メーカー一覧
| メーカー | 国 | かんたんな紹介 |
|---|---|---|
| 三菱鉛筆 | 日本 | ユニカラーと、水彩用のシリーズがあります。 |
| トンボ鉛筆 | 日本 | 自然の色と色名を集めた「色辞典」を展開しています。 |
| ホルベイン | 日本 | 絵具も手がけるメーカーで、色鉛筆は太くやわらかい芯が特徴です。 |
| ファーバーカステル | ドイツ | 1908年発売のポリクロモスが、今も続いています。 |
| カランダッシュ | スイス | 耐光性を重視したものや、水彩用のシリーズがあります。 |
| ステッドラー | ドイツ | 三角軸と芯の保護層が特徴のエルゴソフトがあります。 |
| ダーウェント | イギリス | 水で溶かして使えるインクテンスがあります。 |
| コヒノール・ハードトムート | チェコ | 木軸のない色鉛筆や、多色の芯をつくっています。 |
| リラ | ドイツ | 描画用のレンブラント ポリカラーを展開しています。 |
| プリズマカラー | アメリカ | やわらかい芯と硬い芯のシリーズがあります。 |
日本の色鉛筆メーカー
まずは日本から。
子どもの頃から見慣れているメーカーもありますが、あらためて調べてみると、意外と知らないことがあります。
三菱だけど、あの三菱ではない。
三菱鉛筆|日本

最初は、かなり身近なところから。三菱鉛筆です。
「三菱」と聞くと、銀行や自動車と同じ三菱グループだと思ってしまいますが、実は別の会社です。
これ、知らなかった人もけっこういるんじゃないでしょうか。
そんな三菱鉛筆の代表的なブランドが「uni」。
1958年に高級鉛筆として登場した名前で、語源は「unique」。海外の高級鉛筆に負けないものをつくろうと開発された鉛筆でした。普通の鉛筆が今よりずっと安かった時代に、uniはかなり高価な鉛筆でした。いまでこそ学校でも仕事でも当たり前のように見かける「uni」ですが、最初はかなり攻めた商品だったんです。
色鉛筆にも、その名前を受け継いだ「ユニカラー」があります。
全100色。100色も必要なのかな、と最初は思います。でも、ずらっと並んでいるところを見ると話が変わってきます。赤と青と黄色だけだった世界の間に、こんなに色があったのか、と。100色の色鉛筆って、描く道具でもありますが、ちょっとした色の標本箱みたいでもあります。
名前から色を好きになる。
トンボ鉛筆|日本

色鉛筆の名前を眺めるだけでも楽しいのが、トンボ鉛筆の「色辞典」です。
薄紅、桜貝、忘れな草色、川蝉色。
単純に「ピンク」「青」「緑」と呼ばない。少し遠回りして色を呼びます。
色辞典が発売されたのは1988年。
当時としては珍しく、大人が楽しむ色鉛筆としてつくられました。をただ赤系、青系、緑系と並べるのではなく、「花の色」「鳥の色」「樹木の色」といった自然の中から拾っています。色鉛筆なのに、商品名が「色辞典」。
考えてみれば、なかなか変わった名前です。
でも本棚に置きたくなるような箱を開いて、一色ずつ名前を見ていくと、たしかにこれは辞典なんだなと思えてきます。
絵を描くためだけではなく、色そのものを集める。
そんな楽しみ方ができる色鉛筆です。
名前はドイツ。でも、生まれは大阪です。
ホルベイン|日本

「ホルベイン」と聞いて、最初から日本のメーカーだと思う人は、あまり多くないかもしれません。名前の由来になったのは、ドイツ・ルネサンスの画家、ハンス・ホルバイン。
でも会社の始まりは大阪です。
海外の画家の名前を掲げた、大阪生まれの画材メーカー。
この時点で、ちょっと面白いですよね。
ホルベインは、色鉛筆だけをつくっている会社ではありません。油絵具、水彩絵具、アクリル絵具などを長く手がけてきた画材メーカーです。そんな会社がつくる「アーチスト色鉛筆」は全150色。もともと色鉛筆は、スケッチや下絵など、絵を描く前の補助的な道具として使われることも多かったそうです。
でもホルベインは、色鉛筆そのもので一枚の絵を仕上げられないか、という発想から色鉛筆の製造を行うようになったそうです。
そこで、絵具づくりで培ってきた技術を色鉛筆にも使っていく。
だからでしょうか。
ホルベインの色鉛筆は、「文具」というより「画材」という言葉のほうがしっくりきます。
海外の色鉛筆メーカー
ここからは海外です。
ドイツ、スイス、イギリス、チェコ。
鉛筆の歴史には、ヨーロッパの会社がたくさん出てきます。
しかも、ただ古いだけではありません。
100年以上続く会社が、いまでも普通に新しい色鉛筆をつくっています。
1908年生まれ。まだまだ現役です。
ファーバーカステル|ドイツ

海外の色鉛筆の話になると、かなりの確率で名前が出てくるのが「ポリクロモス」です。
誕生したのは1908年。100年以上前です。発売当初のポリクロモスは60色。それが現在は120色になっています。ちなみに「ポリクロモス」という名前は、ギリシャ語の「poly=多くの」と「chroma=色」から。
つまり、かなりそのまま訳すと「たくさんの色」。ずいぶん直球な名前です。100年以上経って120色になったと考えると、名前どおりの色鉛筆になっています。
もうひとつ、ポリクロモスで大切にされてきたのが耐光性です。
絵を描いたときはきれいでも、時間が経って色が変わってしまったら困る。そこで、光に当たっても色が変わりにくい顔料が研究されてきました。
色鉛筆というと、つい「何色あるか」に目がいきますが、「描いた色が何年後にどうなっているか」まで考えてつくられている。そう思うと、ポリクロモスの見え方も少し変わります。
値段は高い。色をつくる色鉛筆。
カランダッシュ|スイス

カランダッシュ。
なんとなく高級そうな響きがあります。
フランス語ぽい響きもあります。
正直ちょっと高いです。セットになると、「色鉛筆にここまで出すのか」と思います。でも、何色か重ねてみると、その値段の理由が少し見えてきます。
代表的な「パブロ」は、芯にほどよい硬さがあって、薄く色を置きながら少しずつ重ねていくのが得意です。一色で強く塗り切るというより、青の上に紫を重ねたり、その上からもう一度青を戻したり。色を行ったり来たりしながら、微妙な色合いをつくっていけます。
発色はしっかりしているのに、重ねても重たくなりすぎない。そのあたりに、カランダッシュらしさがあります。
一色だけ試すと、「きれいな色鉛筆だな」で終わるかもしれません。
でも二色、三色と重ねていくと、ちょっと印象が変わる。
色を選ぶ道具というより、色をつくる道具。カランダッシュは、そんな色鉛筆です。
鉛筆の芯に、白い鎧を着せました。
ステッドラー|ドイツ

ステッドラーの「エルゴソフト157」を削って、先端をよく見てみると、色の芯の周りに白い部分があります。これ、白い芯が混ざっているわけではありません。「A・B・S」と呼ばれる保護層です。
芯の外側を補強して、鉛筆を落としたときなどに折れにくくするためにつくられています。
色鉛筆というと普通は、発色とか色数とか、やわらかさに注目します。
でもステッドラーは、その前に「芯をどう守るか」に特徴があります。
しかも、その工夫は外から見ただけではほとんどわかりません。削って初めて出てくる。
文具って、ときどきこういう「そこまでやるんだ」というものがあります。個人的には、こういう誰にも気づかれないかもしれない工夫を見ると、そのメーカーがちょっと好きになります。
イギリスには、鉛筆の博物館まであります。
ダーウェント|イギリス

ダーウェントの話は、少し地理から始まります。
イングランド北西部の湖水地方。この地域で良質なグラファイトが見つかったことから、鉛筆づくりが発展していきました。
ダーウェントにつながる会社が鉛筆をつくり始めたのは19世紀。そして現在、湖水地方のケズウィックには「ダーウェント・ペンシル・ミュージアム」という鉛筆博物館まであります。
鉛筆の博物館です。
なかなかニッチです。でも、中には巨大な色鉛筆だけではなく、第二次世界大戦中につくられた、秘密の地図を仕込んだ鉛筆にまつわる展示まであります。
現在の代表的なシリーズのひとつが「インクテンス」。
水に溶かして使える色鉛筆ですが、一度しっかり溶かした色は、乾くと再び水で動きにくくなります。普通の水彩色鉛筆とは少し違った性格です。
メーカーの歴史も、色鉛筆も、なかなかクセがあります。
木をなくしたら、ほとんど全部が芯になりました。
コヒノール・ハードトムート|チェコ

色鉛筆といえば、色の芯を木で挟んだもの。
普通はそう思います。
でも、コヒノールの「プログレッソ」は少し違います。木軸がありません。
ほとんど全部が芯です。そのため、先端で普通に線を描くこともできますし、鉛筆を寝かせて側面を使えば、広い面を一気に塗ることもできます。
これだけでも面白いのですが、会社自体もかなりの老舗。創業は1790年です。
日本でいえば江戸時代。
そんな昔から鉛筆をつくってきた会社が、木をなくした色鉛筆をつくっている。ずいぶん柔軟な老舗です。
さらにコヒノールには、「MAGIC」という一本の芯に複数の色を入れた色鉛筆もあります。描きながら少し鉛筆を回すだけで、線の色が変わっていく。200年以上続く会社なのに、かなり変なものをつくる。
そこがいいところです。
ドイツで生まれて、いまはイタリアへ。
リラ|ドイツ発

リラは1806年にドイツで始まったブランドです。現在はイタリアのFILAグループに入っています。色鉛筆メーカーは、ときどき「結局これは、どこの国のメーカーなんだろう」と迷うことがあります。
ブランドが生まれた国。親会社がある国。実際につくられている国。
全部同じとは限らないんですね。
リラの場合、ブランドの歴史はドイツから始まり、その後、イタリアの企業グループの中で続いています。
代表的な色鉛筆のひとつが「レンブラント ポリカラー」。
レンブラントという名前からして、かなり画材感があります。こういう古いヨーロッパのブランドを見ていると、色鉛筆そのものだけでなく、会社やブランドが国境を越えていく歴史も面白くなってきます。
やわらかい色鉛筆
プリズマカラー|アメリカ

プリズマカラーというと、やわらかい芯の「Premier Soft Core」を思い浮かべる人も多いと思います。 重ねて、ぼかして、しっかり色を乗せる。あの独特の描き心地です。面白いのが、プリズマカラーには「Soft Core」とはかなり性格の違う「Verithin」というシリーズもあること。
Soft Coreは名前のとおり、やわらかい。
一方のVerithinは硬めで、細かな部分や輪郭を描くのが得意です。
同じメーカーなのに、かなり正反対。
「プリズマカラーはやわらかい色鉛筆」とだけ覚えてしまうと、ちょっともったいないんですね。<メーカーではなく、シリーズまで見てみる。色鉛筆選びが面白くなるのは、たぶんこのあたりからです。
結局、どのメーカーの色鉛筆がいいんでしょう。
ここまでいろいろ見てくると、そろそろ「じゃあ結局、どれを買えばいいの?」と思います。
これが困ったことに、ひとつには決めにくい。
100色あるからいい、とも限らないし、200年以上続いている会社だから自分に合うとも限りません。
細かく描くのが好きな人もいれば、紙いっぱいに色を塗るのが好きな人もいます。
そして、ここまでメーカーの話をしておいてなんですが、同じメーカーでもシリーズが変われば、描き心地はけっこう変わります。
なので色鉛筆を選ぶときは、「どこのメーカーが一番いいんだろう」と考えすぎなくてもいいのかもしれません。
この名前、なんだか気になる。
箱が好き。
色の名前がおもしろい。
木がない色鉛筆って、なんだそれ。
そんな入口でも十分な気がします。
色鉛筆は、一本ずつ買えるものもたくさんあります。気になる色を一本だけ選んで、紙に線を引いてみる。そこで「あ、これ好きかも」と思ったら、もう一本。そうやって少しずつ好きなメーカーや色が増えていくのも、なんだか文具らしくていいなと思います。
文具店で色鉛筆を見かけたら、色だけではなく、箱に書かれたメーカーの名前も少し見てみてください。調べてみると、その一本の向こう側に、思っていたより長い話が隠れているかもしれません。
メーカーの公式情報
- 三菱鉛筆ユニカラー / ユニ ウォーターカラー
- トンボ鉛筆色辞典の商品情報 / 水彩色鉛筆 色辞典の発売発表
- ホルベインアーチスト色鉛筆の開発目的と特徴
- ファーバーカステルポリクロモス製品情報 / ポリクロモス公式ガイド(PDF)
- カランダッシュブランドの歴史 / ルミナンス6901 / ミュージアムアクアレル
- ステッドラーエルゴソフト157
- ダーウェントインクテンスの公式FAQ
- コヒノール・ハードトムート木軸のないPROGRESSOとMAGIC
- リラLYRAのブランド紹介 / LYRA Rembrandt Polycolor
- プリズマカラーPremier Soft Core / Premier Verithin