鉛筆と違って、硬さが書いていない。
色鉛筆の芯の硬さは、鉛筆と違って、箱のどこにも書いていない。
鉛筆には、HBとか2Bとか書いてある。硬さが数字と記号で示されていて、買う前に分かる。書きやすい濃さを一度覚えれば、次からは同じものを選べばいい。
色鉛筆は、その約束事の外にいる。同じ「油性色鉛筆」という名前で、まったく感触の違うものが並んでいる。箱の見た目から、その差は分からない。
けれど硬さの差は、実際にはかなり大きい。削った瞬間から違うし、線を引けばもっと違う。値段の差だと感じていたものが、実は硬さの差だったということもある。高いから濃いのではなく、柔らかいから濃く出る。そういう取り違えが起きるくらい、硬さは描き味の中心にいる。
硬さは、その色鉛筆が何をするための道具かをそのまま表している。細い線を引くためのものは硬く、広い面を塗るためのものは柔らかい。表記がないだけで、性格ははっきり分かれている。
表記がない代わりに、手がかりはある。シリーズの説明書きと、削って引いてみた一本の線だ。線の太さと濃さに、硬さがそのまま出る。
硬い芯と柔らかい芯。それぞれ何が得意で、何が苦手なのか。使い分けの話をする前に、まず芯の中で何が起きているのかを見ておきたい。
芯の中身は、顔料と、それを固めるもの。
色鉛筆の芯は、大きく二つのものからできている。色のもとになる顔料と、それを固めるための素材だ。鉛筆の芯が黒鉛と粘土でできているのと、考え方は似ている。
固める素材には、ワックスを主に使うものと、オイルを主に使うものがある。ワックスを多く使えば柔らかくなり、オイルを主体にすると硬めになる。この配合が、そのまま描き味になる。配合は各社それぞれで、同じ油性でも中身は違う。だから同じ値段の帯でも、感触は揃わない。価格帯が上がるほどオイル主体のものが増える傾向もあり、値段との関係は高い色鉛筆の記事に書いた。
柔らかい芯は、紙にすぐ乗る。少ない力で濃く出て、広い面を早く塗れる。そのかわり、先が丸くなるのが早い。細い線を長く引くのは苦手で、折れやすくもある。減りも早いので、よく使う色は目に見えて短くなる。
硬い芯は、先が保つ。細い線を引き続けても太らない。ただし一度で濃く出ないので、濃くしたければ何度か重ねることになる。そのぶん時間はかかるが、途中で調整がきく。
もうひとつ、ワックスを多く含む柔らかい芯には、独特の現象がある。塗ってから日を置くと、表面にうっすら白い膜が浮くことがあるのだ。粉を吹いたようにも、曇ったようにも見える。ワックスブルームと呼ばれるもので、芯のワックスが表面に上がってきた状態だ。故障でも傷みでもなく、布でひと拭きすれば元に戻る。オイル主体の硬めの芯では、ほとんど起きない。
折れるのは、芯が悪いからとは限らない。
削っても削っても折れる、という相談を店で受けることがある。話を聞いていくと、芯そのものより、道具と使い方の噛み合わせに原因があることが多い。だから順番に確かめていく。まず、どの削り器で削っているか。次に、何をどの紙に描いているか。芯の不良を疑うのは、その全部を見たあとでいい。
まず削り方だ。長く尖らせるほど折れる。柔らかい芯なら、少し短めに、太めに削った方がいい。鉛筆と同じ感覚で長く削り出すと、最初の一筆で折れることがある。
次に力の入れ方。柔らかい芯は少ない力で濃く出るので、鉛筆と同じ力で握ると強すぎる。そのぶん折れる。濃く出したいときほど強く握ってしまうが、柔らかい芯ではむしろ逆効果になる。
そして紙。目の粗い紙は芯を削り取る力が強い。柔らかい芯を粗い紙に強く押しつければ、当然折れやすい。
落としたことも効いてくる。中で芯が折れていると、削るたびに先が落ちる。買ってすぐなのにやたら折れるときは、輸送中に衝撃を受けている可能性もある。原因は一つとは限らず、いくつか重なっている場合もある。
つまり「折れる芯」は、道具と使い方が噛み合っていないだけのことが多い。芯の太さも関わってくるが、太さと柔らかさの関係は、ホルベインの色鉛筆の記事に譲る。
削り器も、硬さで変える。
意外に見落とされるのが、削り器の方だ。
鉛筆用の削り器は、鉛筆の芯に合わせて刃の角度が決まっている。柔らかい色鉛筆をこれで削ると、長く尖りすぎて折れやすい先ができる。削っている途中で芯が欠けることもある。
色鉛筆用として売られている削り器には、削り上がりが短く太めになるものがある。柔らかい芯でも先が保つ。穴が二つあって、削り上がりの形を選べるものもある。
手回し式の大きな削り器は、力の加減ができるので柔らかい芯に向く。電動は速いが、勢いで削りすぎることがある。刃の切れ味も見ておきたい。刃が鈍ると、削るというより芯をむしる状態になり、それだけで折れやすくなる。
穴の径も確かめておきたい。芯の太い色鉛筆は、軸も太いことが多い。ホルベインのように軸が7.8ミリある色鉛筆は、標準的な穴だときつい場合がある。削り器を買うときは、手持ちの軸が入るかを先に見ておくといい。
カッターで削る人もいる。手間はかかるが、先の形を自分で決められる。細い線用に長く、面を塗る用に短く、と使い分けられるのは手削りの利点だ。柔らかい芯は削っている途中の力にも弱いので、刃を軽く当てて、鉛筆の方を回すようにするとうまくいく。
削り器を替えるだけで折れなくなることは、めずらしくない。芯を疑う前に、削り口を見てみるといい。先が長く細く尖っているなら、削り器が芯に合っていない。
一箱に硬さを混ぜるという手もある。
では、どちらを選ぶか。
細かく描き込みたいなら硬めだ。木の枝や髪のような、線が仕事をする絵には硬い芯が向く。重ねても濁りにくいので、色を積み上げていく描き方にも合う。
広い面を塗りたいなら柔らかめだ。空、水面、花びら。少ない手数で色が乗り、なじませやすい。
そして、多くの人が最後に落ち着くのは、両方持つという使い方だ。硬い芯で輪郭と細部を描き、柔らかい芯で面を埋める。同じ絵の中で使い分ける。受け持ちを分けると、迷いも減る。細部がにじむのも、面塗りに時間がかかるのも、道具の不満に見えて、実は配役の問題だったりする。
そういう使い方をするなら、セットを二箱買う必要はない。柔らかい方は、よく使う数色だけ単色で足せばいい。単色での買い足しは、バラ売りの記事に書いた。よく使う二、三色を足すだけでも、面の塗りやすさは変わる。空の青と影のグレーあたりが、最初の候補になる。
硬いか柔らかいかは、こうして並べてみると、優劣の話ではなくなってくる。硬い芯の得意は柔らかい芯の苦手で、逆もまたそうだ。一箱の中の硬さの差は、使い込むほど頼もしくなる。決めるのは芯ではなく、何を描くかだ。
HBも2Bも、書いていない。書いていないものは、削って、一本引けば分かる。