削ってみると、まず太い。

ホルベインのアーチスト色鉛筆を初めて削ると、たいてい同じ感想になる。芯が太い。ホルベインの色鉛筆の特徴は、突き詰めればこの太さから始まっている。

実際に太い。芯の直径は3.8ミリ、軸は7.8ミリある。並べてみれば見て分かるくらいの差で、手に持つと、鉛筆というより画材を持っている感じがする。

箱から一本抜いて手の中で転がすだけでも、径の存在感がある。

削ったときの手応えも違う。柔らかいので、削り器がすっと入る。刃が芯に当たるときの抵抗が、ふつうの色鉛筆よりずっと軽い。

長く尖らせようとすると先が欠けるから、短めに、太めに削ることになる。尖らせて細い線を引く道具ではないことが、削った時点でもう伝わってくる。

そして紙に置いた瞬間に分かる。乗る。力を入れていないのに、もう濃い。試し書きの一本目で、筆圧の前提が崩れる。

これが好きな人と、戸惑う人に分かれる。硬い芯に慣れていると、意図した以上に濃く出て驚く。薄く塗るつもりが、一発で決まってしまう。最初の数枚は、この濃さに慣れる時間になる。

逆に、広い面を塗るのに苦労してきた人は、ここで解放される。面を埋める往復が、目に見えて減る。

柔らかいというのは、単に描きやすいという意味ではない。力の入れ方ごと変えることを求められる、ということでもある。

絵の具の会社が、色鉛筆をつくるとどうなるか。

ホルベインは、もともと絵の具の会社だ。

色鉛筆をつくっている会社の多くは、鉛筆から来ている。三菱鉛筆もトンボ鉛筆も、ファーバーカステルもステッドラーも、まず鉛筆の会社だった。

線を引くための道具に、あとから色がついた。だから芯は締まっていて、線が素直に出る。

ホルベインは逆から来ている。絵の具の会社が、色を置くための道具として色鉛筆をつくった。発想が線ではなく、面にある。

公式の説明も、顔料から始まる。「きめの細かい顔料を使用した、タッチのやわらかい油性色鉛筆」。道具の説明の先頭に、まず顔料が来る。そこに、出自が出ている。

全150色という色数も、絵の具のパレットの発想だ。線を引くために必要な色はそう多くない。面をつくるために、微妙に違う色が並んでいる。

その厚みは中間色に出ている。淡い色だけを集めた50色のセットが別に組めるほど、間の色が多い。灰色にすら「ウォームグレイNo.2」のような番号つきの色名が並ぶ。

基本の色を尖らせるより先に、色と色の間を埋めにいく。絵の具の会社の、色の集め方だ。

12色セットが三種類あることも、6色から150色まで段が細かく刻まれていることも、この発想の続きだ。それぞれに別の記事がある。

琴平文具店では、この色鉛筆の定位置は文具の棚ではなく、絵の具の隣だ。文具というより、画材の顔をしているからだ。

柔らかいと、混ざる。

柔らかい芯には、はっきりした性質がある。重ねたときに、混ざる。

硬めの芯で三色を重ねると、色ガラスを三枚重ねたときのように、それぞれの色が別々のまま透けて見える。濁らない代わりに、なじまない。

ホルベインで同じことをすると、下の色と混ざり合って、重ねたどの色でもない一色に変わっていく。公式も「ソフト芯の特徴を活かし、3〜4色の塗り重ねができる」と、重ねて使うことを前提に説明している。三色、四色と重ねることが、仕様の内側にある。

これは長所にも、扱いの難しさにもなる。なじませたいときは速い。空のグラデーションや肌の階調のように、境目を消したい場面では、手数がまるで違う。

けれど、狙った色を正確に置きたいときには、混ざりすぎる。層を層のまま残したい絵には、硬い芯の方が向いている。

空や肌のような面はこちらが速く、窓枠や葉脈のような線は硬い芯が確実だ。向き不向きは、絵の場面ごとに入れ替わる。

グラデーションで比べると、差がよく出る。ホルベインは数回の往復で自然につながるが、硬い芯で同じなめらかさを出そうとすると、往復がずっと増える。

硬い芯側の代表と同じ紙で塗り比べた結果は、ポリクロモスとの比較の記事に書いた。

紙も選ぶ。目の粗い紙では、柔らかい芯がよく食いつく。なめらかな紙だと、乗りすぎて早く紙が埋まることがある。

この色鉛筆に合わせるなら、少し目のある紙の方が長く重ねられる。紙を選ぶ基準まで、絵の具寄りになる。

水彩絵の具の上にも描ける。

もうひとつ、あまり知られていない性質がある。水彩絵の具やガッシュ、アクリル絵の具で塗った上から描けることだ。公式が「水彩絵具、ガッシュ、アクリル絵具の上からも描けます」と明記している。

これも絵の具の会社の発想だ。色鉛筆だけで一枚を仕上げることを前提にしていない。他の画材と並んで使われる場面を、最初から想定している。単独の道具ではなく、画材の一員としてつくられている。

水彩で空を塗り、乾いてから色鉛筆で木の枝を描き込む。そういう使い方ができる。乾いた絵の具の面の上なら、色鉛筆の線は沈まずに立つ。下の色が動かないから、線の際が崩れない。

水彩は広い面が得意で細部が苦手、色鉛筆はその逆だから、組み合わせると互いの弱いところが埋まる。役割を分けると、両方の持ち味が立つ。

使い方の幅も広い。下地だけ絵の具でつくって、あとは全部色鉛筆で描く。逆に、色鉛筆で描いたものの一部だけを、絵の具で沈ませる。

広い下塗りを絵の具に任せれば、色鉛筆は細部という得意な仕事に集中できる。色鉛筆で始めて、色鉛筆で終わらなくてもいい。

さらにその先もある。絵の具の上に描けるだけでなく、塗った色を、あとから専用の液で溶かして動かせる。画材の境目を、この色鉛筆は二つの方向にまたいでいる。メルツというその液のことは、別の記事に書いた。

「折れにくい」と書いてある。

柔らかい芯の弱点は、折れやすいことだ。これは避けられない。

ところがホルベインは、この芯を「適度なやわらかさで折れにくい芯」と説明している。柔らかいことと折れにくいことを、両方言っている。

矛盾しているようで、していない。芯が太いからだ。直径3.8ミリあれば、柔らかくても中で支えが効く。細い芯を同じ柔らかさにしたら、こうはいかない。

つまり太さは、塗る面積のためだけの数字ではない。柔らかさを成立させるための構造だ。7.8ミリという太い軸も、この芯を包む鞘のようなものだ。

公式の記述を並べ直すと、設計の順番が見えてくる。きめの細かい顔料でやわらかいタッチを出し、そのソフト芯を3.8ミリの太さが支える。だから「折れにくい」と書ける。

どの一つを抜いても、この芯は成立しない。柔らかさを起点に読むと、全部が一本の線につながる。

順番は、おそらく逆ではない。太い芯をたまたま柔らかくしたのではなく、柔らかくするために太くしてある。公式の書き方も、紙の上での振る舞いも、そう読める。

とはいえ、削り方を間違えれば折れる。長く尖らせず、強く握らない。この二つを守れば、柔らかい割によく保つ。細かい削り方の話は、芯の硬さの記事に書いた。

芯が太くて、柔らかくて、混ざる。そして絵の具の上にも乗る。この設計を一言に戻すなら、こうなる。

柔らかくしたいから、太くした。