油性か水彩か、という分け方には続きがある。

色鉛筆を選ぶとき、まず油性か水彩かを決める。ホルベインのメルツは、その分け方の続きにある道具だ。公式の呼び名は「油性色鉛筆ぼかし液」。油性色鉛筆を、溶かす。

順を追って書く。油性は水に溶けないから、重ねて使う。水彩は水で溶けるから、伸ばして使う。

この違いははっきりしていて、選ぶときの分かれ道になる。二つの違いそのものは、別の記事に書いた。

メルツは、その分かれ道の先にある。油性色鉛筆も、水には溶けないだけで、この液でなら溶ける。水彩のようなにじみが、油性のまま手に入る。

35ミリリットルの小さな瓶で、税込418円。成分表示は界面活性剤とグリコールエーテルだ。

アーチスト色鉛筆と一緒に使うことを前提にしていて、150色の木箱のセットには、鉛筆削りと並んでこの液が入っている。付属品というより、道具の一部という扱いだ。木箱の話は、別の記事にある。

使い方は単純で、油性色鉛筆で塗ったところに、この液を含ませた筆を通す。すると、色がほどけて広がる。

公式の説明も一行で済んでいる。先に色鉛筆で描いておき、その上を溶かしてぼかす。それだけの道具だ。

水彩色鉛筆を持っていなくても、似たことができる。しかも、描いてから、溶かすかどうかをあとで決められる。この「あとで決められる」が、メルツの性格をいちばんよく表している。

水彩色鉛筆とは、にじみ方が違う。

やっていることは水彩色鉛筆に似ているが、感触は同じではない。

水彩色鉛筆に水を通すと、鉛筆のタッチが比較的すぐ消えて、水彩絵の具に近い状態になる。色が水と一緒に流れていく。塗った範囲を越えて広がることもあるので、止めたいところに気をつかう。

メルツで溶かした油性色鉛筆は、もう少し粘る。色が溶けきらず、筆の跡と鉛筆の跡が混ざったような状態になる。塗り込んだところは残り、薄いところだけがほどける。広がり方もおとなしく、塗った範囲の少し外で止まる。

だから、全部を溶かすというより、一部だけをなじませる使い方が合う。空の下の方だけ境目を消す。影の部分だけ溶かして沈ませる。鉛筆の線を残したまま、面だけを整える。

紙のことも知っておきたい。水を使わないので、紙は波打ちにくい。薄い紙やスケッチブックでも扱いやすいのは、水彩色鉛筆に対する利点だ。

ただし目の粗い紙だと、液が入り込みすぎることがある。入り込みの加減は紙で変わるので、隅で一度試してから本番に入るといい。

公式の注意も、色と紙にかかわるものだ。メタリック系やソフトホワイトのように溶けにくい色があること。紙によっては裏にしみることがあること。

この二つは公式が明記している。どの色が向かないかを、メーカーが先に教えてくれている。

水彩色鉛筆は色を流す道具で、メルツは色をなじませる道具だ。

重ねた色を、あとから動かせる。

面白いのは、混色のあとに使えることだ。

油性色鉛筆の混色は、紙の上で色を重ねてつくる。青の上に緑、その上に薄く茶。層のまま残るので、下の色が透けて見える。重ね方の実験は、混色の記事に書いた。

そこにメルツを通すと、層が溶けて混ざる。重ねただけの状態とは違う、絵の具で混ぜたときに近いなじんだ色になる。

色鉛筆で重ねてから、あとで混ぜるかどうかを決められる、ということだ。重ねた段階でいったん見て、混ぜたい部分だけ溶かす。全部を溶かす必要もない。同じ絵の中で、溶かした部分と溶かさない部分をつくれる。

これは水彩色鉛筆にはやりにくい。水彩は水を通した時点で全部が動く。油性をあとから溶かす方が、途中まで戻れる余地がある。描き進める道の途中に、分岐が一つ増える。

順番も変えられる。溶かして乾いた上に、また色鉛筆を重ねられる。溶かした面はなめらかになっているので、その上に引いた細い線は下地とはっきり分かれる。

紙の目が埋まって色が乗らなくなったときも、メルツを通すと表面が均されて、また少し重ねられることがある。行き詰まったときの逃げ道にもなる。

琴平文具店の棚でも、メルツはアーチスト色鉛筆のすぐ横に置いてある。色鉛筆を買った人が、しばらくしてから取りに来ることが多い。最初から必要な道具ではなく、使ううちに欲しくなる道具だからだ。重ねることを覚えたころに、この液の意味が分かる。

メルツペンという形もある。

瓶とは別に、ペンの形をしたものもある。メルツペンという。片方が丸ペン、もう片方が筆のツインタイプで、税込330円。中身は瓶のメルツと同じ液で、形だけが違う。

瓶と筆を持ち歩くのは、外ではやりにくい。ペンの形なら、色鉛筆と一緒に筆箱に入る。旅先のスケッチや外での写生には、こちらが現実的だ。

丸ペンの側は、細いところに使える。窓の桟や枝の間のような、筆では入らない場所を溶かせる。筆の側は面に使う。

一本で二役が済む。瓶の液を筆に含ませる手間も、外ではペン一本に置き換わる。

外で使う道具として考えると、荷物の差は大きい。水彩色鉛筆で外に出るなら、水筆と水と、波打たない厚さの紙が要る。メルツペンなら、色鉛筆にペンを一本足すだけで済む。

重さは約9グラム。筆箱に足す道具としては、ないに等しい。

持ち物が減ると、外で描く回数そのものが増える。道具の形は、そういうところに効いてくる。

机で描くなら瓶と筆、外で描くならペン。同じ液で、道具の形だけが場面に合わせて分かれている。

扱いについて公式が挙げる注意は、子どもの手の届かない所に置くこと、使ったあとの筆を洗うこと、ペン先に直接触れないこと。液の性格は、その注意書きの範囲に収まっている。

道具の分類は、たまに越えられる。

油性色鉛筆と水彩色鉛筆。この二つは別のものとして売られていて、実際に別の道具だ。売り場の棚も、たいてい分かれている。

けれど、油性を溶かす液があるとなると、境目は少し曖昧になる。油性色鉛筆で描いて、最後に一部だけ溶かす。それは油性の絵なのか、水彩の絵なのか。どちらでもいい。

分類は売り場の都合であって、絵の都合ではない。描く手は、棚の仕切りを知らない。

ただし、この液はどの油性色鉛筆にも同じに働くわけではない。公式の技術情報には、他社の色鉛筆は溶けないものが多いようだ、とある。メルツはあくまで、アーチスト色鉛筆とセットで設計された道具だ。

汎用のぼかし液ではなく、専用の続きと考えた方が実態に近い。手持ちの他社の箱で試すなら、隅の一色から様子を見るのが無難だ。

分類を越える使い方は、ほかにもある。油性色鉛筆を水彩絵の具の上に重ねる。これはアーチスト色鉛筆が公式に認めている使い方で、詳しくは別の記事に書いた。箱に書かれた分類は、使い方までは決めていない。

油性か水彩か。まずはそこから選べばいい。

そのあとで、油性色鉛筆が溶けるという続きを知っておくと、もう一歩先がある。その一歩は、道具の側がすでに用意してくれている。