段が、やたらと細かい。

ホルベインの色鉛筆を、何色から買うか。答えの前に、まず段の細かさを見ておきたい。

アーチスト色鉛筆のセットは、6色、12色、24色、36色、50色、100色、150色。しかも12色は三種類あり、6色も二種類、50色にはパステルカラーだけを集めたものが別にある。全部数えると、セットの種類は十を超える。

6色の二種類は蛍光と金銀で、足すための束だ。12色が三種類ある話は、別の記事に書いた。

他のメーカーだと、12・24・36・60・120あたりで区切られていることが多い。ホルベインはその間に50と100が挟まっている。色鉛筆のセットの数字としては、少し珍しい。一段登るときの落差が、どこを取っても小さい。

この細かさは、設計だ。150色まで一気に行かせようとしていない。段を細かく刻んで、少しずつ登れるようにしている。

言いかえれば、150色という頂上は最初から見えている。細かい段は、そこへ向かう通路の設計だ。

12色から36色へ増えると何が変わるか、という一般論は別の記事に譲る。ここでは、ホルベインの段だけを見る。

琴平文具店でも、この段を全部は棚に置かないと決めている。どの段を仕入れるかは、店がこのシリーズをどう読んでいるかの表明になるからだ。置く段と取り寄せる段を分ける。それも、段が細かいからできる棚のつくり方だ。

50色と100色の間で、変わることがある。

段を登っていくと、途中で性質の変わる場所がある。ホルベインの場合、それは50色と100色の間にある。

50色までは、描いていて、目当ての色が箱にないことがまだ起きる。淡い緑が足りない。影に使う紫がない。

ない色は、紙の上で重ねてつくることになる。それはそれで、混色の練習として悪くない時間だ。

100色を開くと、逆のことが起きる。目の前のものに近い色が、箱の中に複数ある。緑をひとつ取るにも、同じ緑が黄寄り、灰寄り、青寄りと横に並んでいる。

箱にない色をつくる時間より、箱にある色から選ぶ時間の方が長くなる。手が最初に向かう先が、紙から箱に変わる。描く工程に、「選ぶ」という一手が挟まる。

ホルベインの段でいえば、この転換は50と100の間のどこかで起きる。50色はまだ「つくる箱」で、100色はもう「選ぶ箱」だ。段が細かいから、この境目をまたぐ位置に自分で立てる。どちら側の自分でいたいかで、買う段が決まる。

150色はどうか。150色は、150個の答えが用意されている箱ではない。目の前の色にぴったり合う一本は、150色あっても入っていない。

近い色を選んで、そこにもう一色重ねる。その出発点が150個ある、ということだ。箱の中の一本と、紙の上の一手を合わせて、はじめて色になる。

色数は答えの数ではなく、選択肢の数だ。ファーバーカステルのポリクロモスが120色なのも、同じ考え方の上にある。

箱は、缶から紙箱、木箱へと変わる。

段を登ると、色数だけでなく箱が変わる。12色から36色までは缶、50色から上は紙箱、150色には木箱の仕様がある。

150色は紙箱のOP945と木箱のOP946の二本立てで、中の150色は同じ。違いは箱と、木箱に付く道具だ。

缶は、持ち歩ける道具の入れ物だ。かばんに入れて、出先で開く。紙箱になると、机の上に据える道具になる。100色の紙箱を持ち歩く人は、あまりいない。

木箱は、さらにその先にいる。税込55,000円で、鉛筆削りと、油性色鉛筆を溶かす液のメルツが一緒に収まっていて、これだけで一式になる。メルツが何をする液かは、別に一本の記事にしてある。

木箱を開けたときの眺めは、缶とは別物だ。ふたを開ける動作に、少し改まったところが出る。ここまで来ると、しまう場所も机の上ではなく、棚の一角になる。

箱の変わり方は、使われ方の想定の変わり方だ。缶の段では、色鉛筆はまだ文具の顔をしている。紙箱の段で画材になり、木箱で道具一式になる。段を登るというのは、色が増えることであると同時に、道具としての置き場所が変わることでもある。

同じ芯が入っているのに、缶と木箱では買われ方まで違う。この違いは、贈り物の話につながる。

贈るなら、どれを選ぶか。

色鉛筆は贈り物に選ばれることが多い。そのときは、自分で買うときと考え方が変わる。

自分で買うなら、段を少しずつ登ればいい。けれど贈るとなると、相手がどのくらい描くのか分からない。少なすぎれば物足りず、多すぎれば持て余す。

間違いが少ないのは、36色から50色のあたりだ。この帯なら、絵を描かない人が受け取っても困らないし、描く人が受け取っても使える。缶から紙箱へ変わる、ちょうど境目の帯だ。

しっかりした贈り物にするなら、150色の木箱がある。一式そろっていて、開けたときの見た目もいい。

さらに上もある。30周年記念のウッドボックス150色。シラカバ材の日本製で、重箱をヒントにした意匠、数量限定で税込77,000円。

ふだんの木箱のOP946とは別物だ。色を仕舞う箱というより、開ける楽しみまで含めた箱という顔をしている。

もうひとつの考え方は、すでに色鉛筆を持っている人に、12色の缶を贈ることだ。パステルカラーやポートレートカラーは、持っている箱に足すための12色なので、重複しない。相手が何を持っているか分からなくても、外しにくい。値段の桁も手頃で、使いかけの箱と喧嘩しない。

気をつけたいのは、道具は使う人が選ぶものだということだ。大きなセットを贈ると、その人の選択を先に決めてしまうことになる。

買い方には、二つある。

では、自分で買うならどうするか。道は二つある。

ひとつは、段を登っていく買い方。24色や36色から始めて、足りないと感じたら50色へ。あるいはパステルカラーやポートレートカラーの12色を横に足す。段が細かいのは、この登り方を想定しているからだ。

弱点は、同じ色を何本も持つことになる点だ。24色を買って36色を買えば、基本の色は二本ずつになる。よく使う色の予備ができると思えば、無駄ではない。

もうひとつは、最初から大きいセットを買う買い方。100色や150色をいきなり買う。無駄が多いようだが、こちらにも理屈はある。

色を選ぶ経験そのものが早く積める。同じ色を二本持つこともない。

第三の道もある。単色だ。アーチスト色鉛筆は一本ずつ買えるので、減った色だけ、欲しい方向だけを足していける。

この話は、バラ売りの記事に書いた。段は登るためだけのものではなく、途中の段に立ち止まったまま、横へ広げてもいい。

どの道を選ぶにしても、買ったら一度、全部の色を塗ってみるといい。150色を一時間かけて塗る。やり方は色見本の記事に書いた。その一時間で、持っている色がだいたい頭に入る。

どの段を選んだかより、塗り切ったかどうかが、その後を決める。

何色から買うか、という最初の問いに戻る。どの段から入っても、そこは150色を頂上に置いた同じ山の途中だ。

多すぎる分だけ、選ぶという経験が手に入る。150色は、多すぎる。それでいい。