ふつう、12色は入門用だ。

12色セットは、色鉛筆の階段のいちばん下の段ということになっている。ところがホルベインの色鉛筆の12色セットは、その説明からはみ出している。三種類あるからだ。

まず、ふつうの12色の話から。赤、青、黄、緑、茶、黒。基本の色が一通り入っていて、そこから始める。小学校の道具箱に入っていたのも、およそこの12色だ。

足りなければ24色へ、36色へと登っていく。12色は、その階段の入り口として売られている。登り方の一般論は、色数の選び方の記事に書いた。

だからどのメーカーの12色も、似た顔ぶれになる。基本の色を12本選べば、選択肢はそう多くない。子どもの頃に使った12色の缶と、いま売られている12色の缶で、入っている色はほとんど変わらない。

12色を選ぶ理由も、決まりきっている。安くて、かさばらず、とりあえず試せるからだ。本気で選んだ12色ではない。

言いかえれば、12色は通過点として設計されている。長く使う一箱だと思って選ぶ人は少ない。

ホルベインのアーチスト色鉛筆には、その12色が三つある。ベーシックカラー、パステルカラー、ポートレートカラー。どれも12色で、どれも缶に入っていて、値段も同じくらいだ。

けれど中身がまったく違う。そして三つのどれも、通過点のつくりをしていない。

三つとも、はじめの一箱ではない。

ベーシックカラーは、想像どおりの12色だ。カナリーイエローにオレンジ、カーマイン、コバルトブルー、それにブラックとホワイト。

12本で一応の世界が閉じるように選ばれた、教科書どおりの構成だ。これは分かる。

パステルカラーの12色は、全部が淡い色でできている。基本の赤も青も入っていない。クリーム、サーモンピンク、ラベンダーブルー、アイスグリーン。そういう顔ぶれだ。

これだけで絵を描こうとすると、濃い部分がまったく作れない。輪郭も引けないし、影も落とせない。

ポートレートカラーは、人を描くための12色だ。シェルピンクとバーントシェンナが肌の基調をつくり、カーマインとフクシアが唇や頬に回る。

スカイブルーやプルシャンブルーも入っているが、これも風景の空のためというより、瞳や陰影のための青だ。公式もこのセットの用途として、陰影や瞳や唇の重ね塗りを挙げている。黒はなく、束ね方が徹底して人に寄っている。

パステルとポートレートは、「最初の一箱」のようには作られていない。一箱で描き切ることを、そもそも目指していない。

にもかかわらず、12色という入門用の顔をした缶で売られている。同じ棚に、同じ大きさの缶で、同じくらいの値段で並んでいる。

ここが面白いところだ。これは入門用の顔をした、入門用ではないセットだ。

足りない12色、という考え方。

なぜこうなっているのか。おそらく、12色を「揃える」ためではなく「足す」ために作っているからだ。

すでに24色や36色を持っている人が、パステルカラーの12色を足す。すると、いままで作れなかった淡い階調が一気に増える。

淡い色は、濃い色を薄く塗っても作れない。薄く塗った赤とピンクは、似ているようで違う。もともと淡い顔料でできた一本があると、まったく違う。

人を描く人が、ポートレートカラーを足す。肌の色を混色で作るのは難しい。赤と黄と茶を重ねて近づけていくのは、慣れないとかなり手間がかかる。近い色が何段階か揃っていれば、そこから調整すればいい。

シェルピンクを下に置き、カーマインを頬に少し。調整が引き算ではなく足し算で済むのは、出発点が近いからだ。

つまりこの三種類は、階段の下の段ではなく、横に伸びる枝だ。ベーシックで始めて、必要になったら横へ足す。

パステルカラーには50色のセットもある。淡い色だけで50色というのは、それだけで一つの体系だ。12色で試して、気に入ったら50色へ。枝の先がさらに伸びている。

150色まで一気に行かなくても、自分に必要な方向だけ12本ずつ増やせる。増やす方向は、自分で決められる。段の全体像は、何色から買うかの記事にまとめた。

6色のセットもある。

同じ考え方で、6色のセットも二種類ある。蛍光のルミナスと、金銀のメタリックだ。

ルミナスの6色は、ルミナスレッド、ルミナスローズ、ルミナスオペラ、ルミナスオレンジ、ルミナスレモン、ルミナスグリーン。全部が蛍光色で、ふつうの箱には入っていない明るさを足すための束だ。

メタリックの6色は、ゴールド、ペールゴールド、ブロンズ、コパー、シルバー、アンティークシルバー。こちらが金銀で、光る質感を受け持つ。クリスマスカードの金文字や、器の縁の銀。出番は限られるが、代わりの利かない色だ。

どちらも「最初の一箱」ではない。すでに持っている箱に、質感や明るさを足すためのものだ。

6色というのは、色鉛筆のセットとしてはかなり少ない。これだけでは何も描けない。けれど、特定の場面でしか使わない色を6本だけ持つのは、理にかなっている。使わない色を24本抱えるより、使う色を6本足す方がいい。

こう並べると、ホルベインのセットの組み方には一貫した考えがあるのが分かる。基本の色は段を登って増やす。特殊な色は、必要になったときに横から足す。この二方向が分かれている。

他のメーカーだと、特殊な色も大きなセットの中に少しずつ入っていることが多い。150色の中に金銀が二本、という具合に。ホルベインはそれを別の缶として切り出している。必要な人だけが買えばいい、という作り方だ。

どの12色から始めるか、で描くものが決まる。

そう考えると、最初の一箱の選び方も変わってくる。

風景や身の回りのものを描きたいなら、ベーシックカラーから始めるのが素直だ。基本の色があれば、重ねて足りない色を作っていける。柔らかい芯が混色に向いている理屈は、芯の柔らかさの記事に書いた。

人を描きたいと決まっているなら、ポートレートカラーから始めてもいい。基本色は後から足せる。人を描き始めた人がいちばんつまずくのが肌の色なので、そこを飛ばせるのは大きい。

人に限れば、この一箱でかなりの範囲が足りる。瞳や陰影に回る青や緑まで、先に選んであるからだ。

淡い色を使いたい、色のついた紙に描きたい、というならパステルカラーという入り口もある。灰色やベージュの紙に淡い色を置くと、白い紙では出ない絵になる。紙の色が、そのまま中間の明るさとして働く。

パステルで始めた人は、あとからベーシックを「濃い部分をつくる12色」として足すことになる。順番が逆でも、幹と枝の関係は変わらない。

そもそも油性か水彩か、色数はいくつか、という選び方の全体は、選び方の記事に整理してある

琴平文具店で同じ12色の缶が三つ並んでいると、たいてい「何が違うんですか」と聞かれる。

12色が三種類あるというのは、12色から始めなくてもいい、という提案でもある。