売り場の前で、たいてい人は固まる。

色鉛筆の選び方は、売り場の前で考えるとかえって難しくなる。棚には12色の缶が並び、隣に24色があり、その横には100色を超える木箱がある。値段は数百円から二万円超まで、同じ「色鉛筆」という名前で並んでいる。幅がありすぎるのだ。

しかも、外から見て分かる違いが少ない。木の軸に芯が入っていて、色がついている。どれも同じ形をしている。

店頭でいちばん多い質問も、ここに集まる。「24色と36色、どっちがいいですか」。返す答えは決まっていて、初めての一箱なら24色、描くものが決まっていて似た色を選び分けたくなったら36色、と伝えている。36色の良さが分かるのは、二箱目からのことも多い。

けれど、決めることは実は多くない。色数と、油性か水彩かと、メーカー。この3つだけだ。

順番も決まっている。まず何色にするかを決め、次に油性か水彩かを決める。メーカーは最後でいい。

逆から選ぼうとすると、まず迷う。「ファーバーカステルとホルベイン、どちらがいいか」から始めても、何色のセットを買うかが決まっていなければ答えは出ない。

3つのうち、最初に決めておきたいのは油性か水彩かだ。ここだけは、使う道具も紙も変わってくる。色数は買い足せるし、メーカーは次の一箱で変えられる。

色数は、多ければいいわけではない。

12色、24色、36色。実際によく選ばれるのは、この3つの段だ。棚でいちばん人が行き来するのも、この3つの間になる。

12色は少なく見えるが、色鉛筆は紙の上で重ねられる。青と黄を重ねれば緑になり、足りないという状態がそのまま練習になる。12色から始めた人ほど、重ねることを先に覚える。

24色あれば、ふつうの風景で困ることはあまりない。空にも木にも建物にも、近い色が箱の中にある。最初の一箱として、いちばん扱いやすい段だ。

36色を超えたあたりから、箱の中の様子が変わってくる。青の隣にもう少し緑がかった青があり、その隣に少し紫がかった青がある。ここから先は、色数がそのまま表現の細かさになっていく。

100色を超えるセットは、最初の一箱には向かない。開けた瞬間は嬉しいが、どれを使えばいいのか分からなくなる。大きな箱は、段を登った先で初めて道具になる。

ファーバーカステルのポリクロモスには120色、ホルベインのアーチスト色鉛筆には150色の箱がある。行き先は、思っているより遠くまで続いている。

それぞれの段で何が起きるか、どう登っていくかは、12色・24色・36色を比べた記事に詳しく書いた。段選びで迷ったときは、そちらが道しるべになる。

とはいえ、最初からどの段に立つか悩みすぎなくていい。24色で足りないと感じたときに、次を考えればいい。

油性か水彩かは、水を一滴落とせば分かる。

見た目はほとんど同じでも、油性色鉛筆と水彩色鉛筆は別の道具だ。

紙に塗って、水をつけた筆でなぞってみる。油性はそのまま残る。水彩は線がほどけて、色が水と一緒に広がっていく。

売り場では試せないが、見分け方としてはこれがいちばん早い。道具の性格は、この一滴で分かれる。

油性は、薄い色を何度も重ねて欲しい色に近づけていく道具だ。細く削れば細かい線も描ける。特別な道具はいらず、紙と鉛筆と鉛筆削りがあれば始められて、塗り絵や細部を描き込む絵に向いている。失敗しても上から重ねて立て直せるから、初めての一箱にも向いている。

水彩は、描いたあとに水を通せる。広い空や海を塗るとき、水を使えば短時間で色を広げられるし、紙の上の色をあとから筆でつなぐこともできる。水筆が一本あれば、色鉛筆の箱がそのまま簡単な水彩セットになる。

ただし水を使うと紙が波打つことがあるので、紙も少し選びたくなる。

覚えておきたいのは、水彩色鉛筆でも水を使わなければ普通の色鉛筆として描けることだ。できることの幅としては、水彩の方が広い。

それでも、迷ったときは油性でいい。選択肢が多いことと、扱いやすいことは別だからだ。水を使うと決めていないなら、油性の方が余計なことを考えずに済む。細かい違いは、油性と水彩を比べた記事にまとめてある。

メーカーは、最後に決めればいい。

色数とタイプが決まれば、選ぶ範囲はかなり狭くなる。24色の油性、と決まった時点で、棚の中の候補は数えるほどになる。

そのうえでメーカーを見ると、違いがつかみやすい。ドイツのファーバーカステルは硬めで、重ねても濁りにくい。日本のホルベインは芯が柔らかく、広い面が塗りやすい。

同じ24色の油性でも、箱によって中身の考え方が違う。描いている時間の感覚が、それぞれ別のものになる。

ここで大事なのは、上下ではないということだ。柔らかい芯は広い面に強く、硬い芯は細部に強い。どちらが優れているかではなく、何を描きたいかで向き不向きが変わる。

向き不向きの軸さえ持っておけば、どのメーカーを選んでも大きな失敗にはならない。

値段も、メーカーを見るときの手がかりになる。ただし、高いものが自分に合うとは限らない。高い色鉛筆は柔らかかったり重ねられる回数が多かったりするが、その性能を使う描き方をしていなければ意味がない。値段の差が実際にどこへ消えているのかは、値段の記事で塗り比べた。

候補が数本まで絞れていれば、店頭の試し書きでも差は感じ取れる。主要なメーカーがどの国で生まれ、何を大事にしてきたかは、図鑑の記事に一社ずつまとめた。

最初の一箱は、たぶん最後の一箱ではない。

最後にひとつ。色鉛筆は、一箱で終わらないことが多い。

使っているうちに、減る色は偏ってくる。そのときは、同じシリーズの上の段を買ってもいいし、減った色だけを一本ずつ足してもいい。別のメーカーを一箱足す手もある。専門家向けの色鉛筆は、単色でも買えるものが多い。

どの色から減っていくのか、そこからどう買い足すのかは、バラ売りの記事に書いた。上の段に進むか、別のメーカーを試すか。その判断も、使った一箱が教えてくれる。

つまり、最初の選択でそこまで背負い込まなくていい。買ってから分かることの方が多いからだ。一箱目の役目は、二箱目を選べるようになることだと言ってもいい。

だから最初の一箱は、そんなに悩まなくていい。24色の油性を一箱、まず使い切るつもりで選べばいい。それで足りないと感じたところが、次に選ぶ手がかりになる。買い足した一本が箱に混ざるころには、三つの判断は全部済んでいる。

二万円の木箱は、その道の先にある。最初の一箱の値段で、決まるものは何もない。

二万円の木箱の前でも、決めることは3つしかない。そして3つとも、あとから変えていける。