欅のはっきりした木目、楓の明るい色、黒檀の濃い色。樹種は選ぶ手がかりになるが、一本の重さや手触りは仕上げと金具にも左右される。
同じ形でも、木が違えば別の道具になる。
木軸のシャープペンシルを選ぶとき、いちばん迷うのが樹種だ。
同じ工房の、同じ形の、同じ機構。違うのは木だけ。それなのに、持つとまったく違うものに感じられる。
重さが違う。硬さが違う。手触りが違う。色が違う。そして値段が違う。
木は工業製品ではないので、性質に幅がある。同じ樹種でも、育った場所や切り出した部位で変わる。だから「この木はこう」と言い切れないところがある。
それでも、おおまかな傾向はある。よく使われる樹種を、いくつか見ていきたい。
数字で比べられないぶん、実物を触るのがいちばん早い分野でもある。
名前を覚えても、持ってみないと分からない。逆に、一度持てば名前は自然に覚える。
木目と明るい色。欅、楓、樺、栃。
まず、明るい色や木目が目に入りやすい木から。
欅は、木目の輪郭がはっきり出るものがある。色の濃淡や木目の走り方が見えるので、同じ樹種の中でも一本ずつ見比べたくなる。
楓は白に近い。木目が細かく、表面がすべすべしている。癖がなく、明るい。木軸に慣れていない人が最初に持つと、これがいちばん違和感がない。
樺も似た系統で、少し黄色みがある。硬く、詰まっている。
栃には、縮み杢と呼ばれる波打つような模様が出ることがある。光の当たり方で表情が変わるので、見ていて飽きない。この模様が出たものは値段が上がる。
明るい木では、色の変化が目に入りやすいことがある。変わる速さや大きさは、樹種と仕上げ、使い方による。
逆に、汚れも目立つ。手が汚れたまま持てば、そのまま入る。そこも含めて変化と考えるかどうかは、人による。
気になるなら、濃い木から始める方が気楽ではある。
赤い木、黒い木。花梨、紫檀、黒檀。
濃い色の木は、重く、硬いものが多い。
花梨は赤茶色で、はっきりした木目が出る。硬く、ずしりと重い。持つと明らかに密度が違うのが分かる。
紫檀は名前のとおり紫がかった濃い茶色。硬く、磨くとよく光る。古くから家具や仏具に使われてきた木だ。
黒檀はほとんど黒い。木の中でも特に重く、硬い。持つと金属に近い感触がある。木目がほとんど見えないので、木というより石のように見えることがある。
こうした木は、重心にも影響する。重い木を使うと、軸そのものが重くなる。金属パーツを足さなくても、しっかりした重さが出る。
値段は高い。希少なものが多く、加工にも手間がかかる。同じ形で、明るい木の二倍三倍することもある。
硬い木は削るのに時間がかかり、刃も傷む。手間が値段に乗るのは、材料の希少さと同じくらい大きい。
木目は、一本ずつ違う。
樹種を決めても、まだ終わらない。木目があるからだ。
同じ木から切り出しても、場所によって模様が違う。まっすぐな木目のものもあれば、渦を巻いているものもある。節が入っているものもある。
工房ものの木軸を通販で買うと、一本ずつ写真が出ていることが多いのは、これが理由だ。同じ商品名でも、届くものが違う。
だから、選ぶという行為の意味が変わる。仕様を選ぶのではなく、その一本を選ぶ。
店で買うなら、並べて見比べられる。これは実店舗の強みだと思う。写真では分からない光の反射や、手に持ったときの重さが確かめられる。
そして、選んだ理由をあとで説明できないことが多い。なんとなくこれが良かった、で決まる。木を選ぶというのは、そういうことのようだ。
理屈で選べないものを選ぶ経験は、道具の世界では案外少ない。
木の重さと、一本の重さを分けて見る。
樹種の違いは重さに関わる。ただ、完成したペンの重量には金具や機構も含まれるので、木の色だけで軽い・重いを判断することはできない。
明るくて軽い木と、黒くて重い木では、同じ形でもかなりの差がつく。この差は、書き味に直結する。
軽い木の軸は、手首だけで軽快に動かせる。速く書く人には向く。
重い木を使っていても、ペン先寄りが重いとは限らない。長く書いて楽かどうかも、持ち方と一本の設計によって違う。
つまり、樹種を選ぶことは重心と重さを選ぶことでもある。見た目で選んだつもりが、書き味を選んでいる。
このあたりを知っておくと、選び方が変わる。木目が気に入った一本を持ってみて、思ったより軽かった、重かった、ということが起きる。
見た目と手の感触の両方で決めるのが、たぶん正しい。
写真だけで決めると、届いてから重さに驚くことがある。木の写真は、重さを写さない。
木を選ぶという、変わった買い物。
シャープペンシルを買うのに、木の種類から考える。改めて書くと、ずいぶん変わった買い物だ。
機構でも、ブランドでも、値段でもなく、素材の名前で選ぶ。しかも同じ樹種の中から、模様で一本を選ぶ。
こういう選び方をする道具は、そう多くない。
琴平文具店の特集では、木目の好みと、書く道具としての好みを分けずに考えている。写真で好きになった一本も、仕様や重さを確かめて選びたい。
決まるときは、あっさり決まる。理由を聞いても、たいてい「これがよかった」としか返ってこない。
そして一本持つと、次が気になる。明るい木を持てば濃い木が見たくなる。ここから先は、道具を増やす話ではなく木を集める話になっていく。
欅、楓、黒檀。名前で覚えるより、持って覚えた方が早い。