野原工芸と工房楔は、木目だけでなく部品や買い方も見て選びたい。工房の紹介と、琴平文具店で買えるという案内は別のものだ。

メーカーではなく、工房がつくっている。

シャープペンシルをつくっているのは、たいてい大きな会社だ。ぺんてる、三菱鉛筆、パイロット、ドイツやスイスのメーカー。

その脇に、まったく違う作り方をしているところがある。木工の工房だ。

木を仕入れ、削り、磨き、金属部品と組み合わせる。部品の設計や調達の仕方は工房によって異なる。

木を仕上げるには工程がある。実際の生産本数は工房ごとに違うので、少ない数だろうと推測しては決められない。

代表的なところに、野原工芸と工房楔がある。どちらも木軸の筆記具をつくっていて、木軸を好きな人の間ではよく知られている。

大きな会社の製品とは、買い方から違う。ここが面白いところでもあり、ややこしいところでもある。

性能で比べる話が、ほとんど出てこない。比べるのは木の種類と、木目と、値段だ。

同じ型でも、値段が違う。

工房ものの木軸で最初に驚くのは、同じ形なのに値段が違うことだ。

理由は樹種だ。使う木によって値段が変わる。手に入りやすい木は安く、希少な木は高い。同じ形のシャープペンシルで、二倍三倍の差がつくことがある。

さらに、同じ樹種でも木目によって値段が動くことがある。模様が美しく出た部分は高い。

これは、材も含めて一本を選ぶということだ。価格には材料の入手性だけでなく、加工や仕上げの手間も関わる。

宝石や、着物の生地に近い買い方かもしれない。仕様ではなく、その一本の材を見て決める。

だから通販で買うときも、一本ずつ写真が出ていることが多い。同じ商品名で、写真が全部違う。

届いてから「思っていたのと違う」が起きにくい代わりに、写真を延々と見比べることになる。選ぶ時間そのものが、買い物の一部になっている。

買い方は、工房ごとに確かめる。

もう一つの特徴が、いつでも買えるわけではないことだ。

買い方は販売の回ごとに確かめたい。工房楔の公式ショップでは抽選販売の案内がある。常設販売やイベントなどの条件は、それぞれの最新告知を確認する。

抽選になることもある。個展や展示会で並ぶこともある。旅行を兼ねて工房まで買いに行く人もいる。

このあたりが「沼」と呼ばれる理由だ。欲しいものが、欲しいときに買えない。買えないから、余計に欲しくなる。

そして買えたときの満足度が、普通の買い物と違う。同じものが二つない上に、次にいつ出るか分からない。

手に入らなかった一本を、何年も覚えている人がいる。道具の買い物としては、かなり変わっている。

集める人が出てくるのも、この構造のためだと思う。一本買うと、次の樹種が気になる。

明るい木を持つと濃い木が見たくなり、濃い木を持つと今度は珍しい木が気になる。終わりがないので、沼と呼ばれる。

軸だけを見ていると、部品を見落とす。

工房の筆記具は、既製の機構に木をかぶせただけだろうか。そうとは限らない。

野原工芸は、国内の部品メーカーと共同開発したオリジナル部品を使うことを公式に案内している。木のシャープペンシルには、ガイドパイプのスライド方式と付属の固定先金の説明もある。

木目だけでなく、握る位置、重さ、先端のつくりまで含めて一本になる。木を選ぶ楽しみと、書く道具としての設計は切り離せない。

工房楔についても、購入する作品の仕様を個別に確かめたい。同じ木軸という言葉で、機構や交換部品まで同じものとして扱うべきではない。

量産の金属軸と、木軸の一本。何に惹かれるかは違っても、どちらも使う人の手に届く道具だ。

選ぶ時間が、長くなる。

工房ものを買おうとすると、決めるまでに時間がかかる。

まず樹種を決める。次に、その樹種の中から一本を選ぶ。木目の出方が違うので、写真を何枚も見比べることになる。

大きなメーカーの製品なら、型番と色を決めれば終わる。ここはそうはいかない。

そして、決め手が言葉にならない。値段でも、性能でも、評判でもなく、これが良かった、で決まる。

こういう買い物は、道具の世界ではあまりない。服や器なら普通のことだが、筆記具でここまでするものは少ない。

だから、買ったあとの記憶に残る。どこで、どの一本を、なぜ選んだか。それが道具に貼りついている。

木軸は、修理と交換の世界でもある。

工房ものの木軸には、長く使う前提の設計が多い。

不調が起きたときに部品を交換できるかは、製品と供給状況による。野原工芸は、可能な範囲で木部を残す修理方針を公式に案内している。

木の部分も、削り直して仕上げ直せることがある。落として欠けても、直せる場合がある。

このあたりは工房によって対応が違うので、買うときに確かめておくといい。長く使うつもりなら、修理を受けてくれるかどうかは値段と同じくらい大事だ。

十年二十年使うことを前提にすると、三万円の一本が高いのかどうかは分からなくなる。

一年あたりにすれば、安いシャープペンシルを毎年買い替えるのと変わらないこともある。もっとも、そういう計算をして買う人はあまりいない。

この記事は工房を知るための紹介で、琴平文具店が両工房の正規取扱店であることや、現在の在庫を示すものではない。取扱店と販売方法は、各工房の公式案内で確認してほしい。

出会った一本でも、予算や使い方に合わなければ急いで決めなくていい。買い方まで含めて納得して選びたい。

並べて見比べてもらうしかないので、こういうものは通販より店の方が向いている。写真では、重さも手触りも伝わらない。

木軸という沼。入口は一本のシャープペンシルだが、その先はかなり深い。

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