海外の色鉛筆の話ばかりが目につく。

色鉛筆を調べていると、出てくるのはたいてい海外のメーカーだ。ドイツ、スイス、イギリス。日本製の色鉛筆は、子どもの頃に使ったものという印象で語られがちで、比較の土俵になかなか乗ってこない。

学校で配られた12色の缶。名前を書くシールを貼った、あの色鉛筆。けれど、あれが日本の色鉛筆のすべてではない。

日本には、長く色鉛筆をつくってきた会社が三つある。しかも三社は、出自がまるで違う。値段だけを見て海外勢の廉価版のように扱うと、三本とも見誤る。

三菱鉛筆とトンボ鉛筆は、名前のとおり鉛筆の会社だ。ホルベインは絵の具の会社である。鉛筆から来たか、絵の具から来たか。

検索の窓に「三菱 トンボ 比較」と打ち込む人が絶えないのは、この迷いがいまも現役だからだ。三社三様、と言葉で言うのは簡単だが、紙の上の差はもっとはっきりしている。

三社の代表を、同じ紙に並べた。三菱鉛筆のユニカラー、トンボ鉛筆の色辞典、ホルベインのアーチスト色鉛筆。鉛筆の会社が二本、絵の具の会社が一本という並びになる。同じ紙・同じ光でそろえる組み方は価格の記事で説明していて、見どころは、出自の違いが紙の上にどう出るかだ。

海外のものと比べる前に、まず足元を見ておきたい。

鉛筆の会社がつくると、線が素直になる。

三菱鉛筆のユニカラーは、名前のとおり「ユニ」の系譜にある。あの、鉛筆のユニだ。

全100色で、セットは36色・72色・100色の三段。公式は「クリアな色調、均質な着色、ほどよい硬度を持つ、アートワークに最適なプロ仕様色鉛筆」と説明している。

全100色という規模は、意外に知られていない。学校の12色の印象で止まっている人ほど、この箱には驚くはずだ。学校の色鉛筆と同じ売り場にいながら、中身はプロの道具になっている。

塗ってみると、まず線がきれいだ。芯が締まっていて、削った先が長く保つ。細い線を長く引いても、太らない。

「ほどよい硬度」という公式の言い回しは、塗った感触とよく合う。主張しすぎない硬さで、線の輪郭が最後まで崩れない。

ベタ塗りは、いい意味で素っ気ない。むらなく均一に乗るが、劇的に濃いわけではない。何度か重ねると、そのぶんきちんと濃くなる。

書くための道具をつくってきた会社の色鉛筆だ。色を置くというより、色のついた線を引く。字を書く延長にある感触がある。

発表資料には、表面に白い曇りが出にくい特殊合成ワックスを配合した、という説明もある。図面や地図への書き込みから、手帳に色を入れるような日常の使い方まで、狙いどおりに動く。

値段の面でも入りやすい。海外の専門家向けに手を出す前に、まずここで重ねることを覚える、という道がある。硬めの芯は、薄く塗って何度も重ねる練習にちょうどいい。

色辞典は、色の選び方から違う。

トンボ鉛筆の色辞典は、少し変わっている。全100色に一色ずつ色名がついていて、その名前が前に出ている。色は系統ごとに並び、辞典のように引ける。

色名は自然や暮らしの言葉から取られていて、トーンごとに10色ずつまとまる構成も辞典の名にかなっている。箱を開けると、色見本帳を開いたような気分になる。

塗り味そのものは三菱に近く、鉛筆の会社らしく芯は締まって、線がまっすぐ走る。違うのは、色の選び方だ。似た色が近くに並んでいるので、「この青ではないな」と思ったとき、隣を取ればいい。

名前がついていると、色を覚える。番号で呼んでいるうちはなかなか頭に残らないが、名前なら、その色を探すときに名前の方から思い出せる。使ってみると、自分がどのくらい色を見分けているかも分かってくる。

辞典は、実際に版を重ねてきた。1988年の第一集に始まり、1990年に第二集、1992年の第三集で90色。2018年に10色が加わって、いまの100色になった。三十年かけて版を重ねる文具は、そう多くない。

2026年の夏には、水彩色鉛筆の色辞典も出た。辞典は、水彩にまで広がっている。

贈り物に選ばれることが多いのも、この佇まいのせいだ。色を選ぶ時間が少し長くなる、とも言える。ただ、色鉛筆を使う時間は、もともとそういう時間でもある。

ホルベインだけ、別の場所から来ている。

ホルベインのアーチスト色鉛筆だけ、来た場所が違う。つくっているのは、鉛筆の会社ではなく絵の具の会社だ。

芯は直径3.8ミリと太く、削ると柔らかい。置いた先から色が付き、ベタの面が二社より少ない往復で埋まっていく。塗り比べの紙の上では、この四角だけ質感が違って見える。

細い線は、二社より早く太る。そのかわり面を塗るときの伸びが別物で、重ねると下の色となじんで境目が消えていく。軸を寝かせて腹で塗ると、広い面が一往復ごとに埋まっていく。立てて線を引く道具というより、寝かせて面をつくる道具だ。

三菱とトンボが「書く」の延長にいるとすれば、ホルベインは「塗る」から出発している。線を引く道具ではなく、色を置く道具である。水彩絵の具やアクリルの上から描ける仕様も、他の画材と並べて使う前提から来ている。絵の具の会社の芯がなぜこうなったのかは、ホルベインの柔らかさを掘り下げた記事に書いた。

海外のものと、どう違うのか。

では、この三社は海外の色鉛筆と比べてどうなのか。

まず値段が違う。三菱とトンボは、海外の専門家向けシリーズより手に入れやすい帯にある。ホルベインは、海外の上位シリーズと近い帯だ。

描き味で言えば、三菱とトンボはドイツのものに近い。硬めで線がまっすぐという点で、ステッドラーやファーバーカステルと同じ側にいる。鉛筆の会社という出自が共通しているからだろう。

ホルベインは、どちらかというとアメリカのプリズマカラーやイギリスのカラーソフトに近い。柔らかく、混ざる。ただ、それらより折れにくい印象がある。

海外の顔ぶれはメーカー図鑑の記事に、ホルベインとポリクロモスの一対一の塗り比べは比較の記事に、それぞれまとめてある。

「日本製だからこう」という括り方はできない。三社の中の差の方が、日本と海外の差より大きいくらいだ。

どれか一本に決める必要も、実はない。硬い線の一箱と柔らかい面の一箱は、同じ机の上で両立する。「どっちがいいか」という問いは、塗り比べのあとでは「どれを何に使うか」に変わっている。

店では「日本のは、海外のより落ちるんですか」と聞かれることがある。この記事の結論が、そのまま返事になる。

日本の色鉛筆は、海外のものの安い代わりではない。別の考え方でつくられた、別の道具だ。三菱は線、トンボは辞典、ホルベインは面。三本並べて塗れば、その違いは紙の上にそのまま出る。