色鉛筆を変える前に、紙を変えてみる。

思ったより濃く出ない。重ねてもきれいにならない。そう感じたとき、まず色鉛筆を疑う人が多い。もっといいものを買えば変わるのではないか、と。

けれど、疑う先は紙の方かもしれない。色鉛筆に合う紙を探す前に、知っておきたいことがひとつある。紙は、色を変える。

色鉛筆は、紙の表面の細かい凹凸に芯を削り取られて色が乗る。だから凹凸の深さや形が変われば、乗る量も変わる。同じ鉛筆でも、紙が違えば別の色に見える。鉛筆を替えたのかと聞かれるほど、変わることがある。

考えてみれば当たり前のことなのだが、色鉛筆の話をするとき、紙はあまり話題にならない。鉛筆の方が主役に見えるからだろう。けれど紙は、絵のいちばん下で、最初から最後まで働いている。

試しに、五種類の紙に同じ五色を塗ってみた。コピー用紙、ケント紙、画用紙、モデラトーン、そして少し色のついた紙。実験の組み方は、高い色鉛筆の記事と同じだ。

使ったのは赤、青、黄、緑、茶。どの箱にも入っている、標準的な五色だ。

並べてみると、同じ鉛筆で塗ったとは思えないほど違った。変わるのは濃さだけではない。線の太り方も、重ねられる回数も、発色まで、紙が半分を決めている。

赤は五枚の紙の上で、五つの赤になった。

つるつるした紙は、早く止まる。

コピー用紙は、いちばん手近な紙だ。塗ってみると、最初はよく滑る。線もきれいに引ける。

ところが重ねていくと、すぐに頭打ちになる。何が起きているかというと、紙の浅い凹凸が、削り取られた芯の成分で埋まっていく。埋まってしまえば、もう芯を削り取るものがない。あとは鉛筆が紙の上を滑って、色が乗らなくなる。この状態で無理に塗ると、せっかく乗った色を逆に削り取ってしまうこともある。

色鉛筆が濃く出ないという悩みの多くは、実はここに原因がある。鉛筆ではなく、紙が受け止められる量の問題だ。

ケント紙も表面はなめらかだが、こちらはもう少し粘る。製図やペン画に使われる紙で、目が詰まっていて均一だ。細い線がきれいに出て、色むらが少ない。細部を描き込みたいときに向いている。ただし、深く重ねる用途にはやはり限度がある。

画用紙は逆だ。目が粗く、凹凸が深い。だから何度でも重ねられる。ただし目が粗いぶん、塗ったときに白い点が残る。均一に塗りつぶしたいなら、かなり手数がいる。重ねて混ぜる技法の側から見た話は、混色の記事に書いた。

もうひとつ、紙には裏表がある。手漉きふうの紙や目のある紙は、片面だけ目が立っていることがある。同じ一枚でも、どちらの面に塗るかで乗り方が違う。買ったときに両面を試しておくといい。

つまり、なめらかな紙は線に強く、粗い紙は重ねに強い。どちらがいい紙という話ではない。

少し凸凹しているくらいが、ちょうどいい。

その中間にあるのが、モデラトーンのような紙だ。

表面にごく浅いフェルトマークが入っている。目は粗くないのに、平らでもない。色鉛筆を走らせると、細かく引っかかりながら乗っていく。引っかかるといっても、抵抗ではない。芯が紙に噛む、静かな手応えがある。

この紙が扱いやすいのは、線も引けて、重ねもきくところだ。細い線が太らず、それでいて四回、五回と重ねても紙がまだ受け止める。

中間といっても、妥協ではない。色鉛筆は、一枚の絵の中で線と面を行き来する道具だ。細部は線で描き、空は面で塗る。その行き来をそのまま受け止められる紙が、いちばん働く。

もうひとつ、白の違いも大きい。紙の白は一種類ではない。青みがかった白、黄みがかった白、少し灰色を含んだ白がある。この下地の白が、上に乗る色の見え方を変える。同じ黄色でも、青みの白の上では冷たく、黄みの白の上では暖かく見える。

厚さも効いてくる。薄い紙は、強く塗ると裏から見て凹んでいるのが分かる。重ねる絵を描くなら、ある程度の厚みがあった方がいい。水を使う水彩色鉛筆なら、なおさらだ。

琴平文具店が紙を選ぶとき、何度もモデラトーンに戻ってくるのは、このあたりが理由だ。派手な紙ではない。ただ、色鉛筆と相性がいい。

白でない紙に塗ると、考え方が変わる。

最後に、少し色のついた紙に塗ってみる。

灰色や薄いベージュの紙に同じ五色を塗ると、まったく印象が変わる。暗い色は沈み、明るい色は浮き上がる。同じ五色とは思えないほど、順位が入れ替わる。そして、白い色鉛筆が急に働き始める。

白い紙の上では、白い色鉛筆はほとんど何もしない。使いどころが分からず、出番のないまま残りがちな色だ。けれど色のついた紙の上では、白がいちばん明るい色になる。光を描く道具になる。色のついた紙を一枚買うことは、白い一本の使い道を買うことでもある。

このとき、描き方の順番も変わる。白い紙では「暗いところを足していく」が、色紙では「明るいところを足していく」。同じ色鉛筆で、逆のことをしている。

紙の色は、絵の時間帯まで決める。灰色の紙に描けば曇りの日の光になり、生成りの紙なら、夕方の光が最初から差している。下地が一色決まっているだけで、絵の空気が揃う。

紙の色を、そのまま絵の中の色として使う手もある。ベージュの紙に人を描けば、紙の色がそのまま肌の中間の色になる。全部を塗らなくても絵が成立する。塗り残すことが、そのまま描くことになる。

白い紙だけが、色鉛筆の紙ではない。色のついた一枚は、それを教えてくれる。

紙を変えるのは、鉛筆を買い足すより安い。

ここまで試すと、はっきりすることがある。紙を変えるのは、ずいぶん安上がりだ。

色鉛筆を一段上のものに買い替えれば、数千円から一万円を超える。紙は一枚から買える。何種類か買って試しても、たいした金額にはならない。一箱の値段で、紙なら棚の端から端まで試せる。

そして効果は、思っているより大きい。同じ色鉛筆でも、乗り方から重ねられる回数まで変わる。紙を一枚替えることは、色鉛筆を一本増やすことと、ほとんど同じ効き方をする。

やり方は簡単で、何種類かの紙に同じ色を同じように塗って、並べておくだけだ。一枚つくっておけば、次に描くときの手がかりになる。持っている色の全部でやるなら、カラーチャートの記事が詳しい。

文具店で紙を買うとき、一枚から買えるものは意外と多い。画用紙もケント紙も、束で買わなくていい。何種類か一枚ずつ持ち帰って、同じ絵を描いてみる。それだけで、自分に合う紙が見つかることがある。

紙が決まると、色鉛筆の選び方も変わってくる。重ねられる紙を使うなら硬めの芯が生きるし、なめらかな紙なら柔らかい芯の方が乗る。紙と鉛筆は、別々に選ぶものではない。鉛筆側の選び方は、選び方の記事にまとめた。

机の上に五枚の紙を並べて、同じ赤をひとつずつ置いてみる。五つの赤は、それぞれ別の顔をしている。どれが正しい赤ということではなく、どの赤で描きたいかが残る。

同じ赤が、紙で別の色になる。